愛知学院大学 禅研究所 禅について

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禅書のしおり 平成29年度

角田泰隆編著『道元禅師研究における諸問題―近代の宗学論争を中心として―』(春秋社)

角田泰隆編著『道元禅師研究における諸問題―近代の宗学論争を中心として―』(春秋社)

 本書は、副題の通り、近代以降の曹洞宗学に関連する論争を採り上げたものです。第1部は駒澤大学教授の角田泰隆氏が「近代の宗学論争」として全6章を論じ、第2部は「道元禅師研究における諸問題」として5人の若手・中堅の研究者によって6つの問題を論じています。

 本書は、曹洞宗学の領域や手法を定義しつつ、特に1985年以降駒澤大学を中心に巻き起こった「批判仏教」に応答する内容となっています。批判仏教では、本覚思想(如来蔵思想)を仏教ではないと断じ、若い頃は本覚思想的だった道元禅師も、晩年は因果思想を中心に変容したと主張されました。しかし、本書第1部で角田氏は、道元禅師が本師如浄禅師の下で身心脱落されてからは、思想的な変容は無いという立場を採り、その証拠を道元禅師の著作全体を俯瞰しつつ、高度な解釈論を用いて論じています。第2部の各論で、特に書誌学的成果について見ると、『正法眼蔵』編集論は、道元禅師の思想を知る上での基本であり、編集から理解できる思想的体系への考察は、『正法眼蔵』そのものを知る上で必須であると分かります。

 本書は、今後、曹洞宗学を志す人がいれば、近年の議論を知る上でも、必読の一書であるといえます

山田史生著『禅問答100撰』(東京堂出版)

山田史生著『禅問答100撰』(東京堂出版)

 師が弟子の修行の進捗を測るために用いる公案は、一般的に禅問答と呼ばれます。これは問答本文(本則)と、それに対する選者の受け止め方あらわす漢詩(頌(じゅ))が1組みとなっており、頌古(じゅこ)という形をとります。頌古を底本とし、禅僧が読む上での心構えや注釈を加えたものが『碧巌録(へきがんろく)』や『従容録(しょうようろく)』として禅宗で重用されてきました。本書は圜悟克勤(えんごこくごん)の『碧巌録』百則から注釈を切り離し、底本である雪竇重顕(せっちょうじゅうけん)の『雪竇頌古』をより深く味わうという趣旨に基づいています。

 著者の山田氏は、禅問答とは対話として処することの不可能なやりとりとしています。弟子の問いに対して、師は答えを与えず、弟子をさらなる問いへと導く。禅問答を読んで「わからない」と思った時、それが出発点となります。簡単に「わかる」ような、躓(つまず)かないで得られる真理より、躓いて苦労が刻み込まれた真理は尊いというのです。

 本書は平易な文章で書かれ、頌古の題を見ても文殊前後33を「ピンからキリまでいるよ」、鏡清雨滴声(きょうせいうてきせい)を「危ない所だった」といったように、問答の核心を突く言葉で表現しています。

 禅問答に難解な印象を持たれている方にこそ手にとっていただきたい良書です。

船山徹著『東アジア仏教の生活規則 梵網経―最古の形と発展の歴史―』(臨川書店、2017年)

船山徹著『東アジア仏教の生活規則 梵網経―最古の形と発展の歴史―』(臨川書店、2017年)

 日本を含めた東アジアでは、大乗仏教が隆盛し発展しました。『梵網経』は、大乗仏教に特有の戒律(日々の生活規範)を教える代表的な経典のひとつです。その教えとして菩薩の「十重四十八軽戒」が知られ、「梵網戒」とも称されます。梵網戒は、食肉を禁じるだけでなく、「五辛」と呼ばれる蒜(サン)や葱などの野菜や飲酒の禁止なども含みます。古寺の山門に建てられた「不許葷酒(くんしゅ)入山門」の文字も本経と深い因縁を有します。

 『梵網経』は、菩薩が行うべき40項目の修行段階を説いた上巻と、菩薩の行動規範を説く下巻から成ります。本書は、「十重四十八軽戒」を含む下巻について、20種を超える資料の校勘により、中国で製作された『梵網経』の最古形の策定を試みます。そこから、明確な意図をもって書換えられていく『梵網経』の歴史的変遷に迫ります。

 本書で筆者は、『梵網経』製作者の意図を明らかにするとともに、経典の「自律的発展史」を提唱し、西洋の仏教文献学の方法論に一石を投じ、 新たな校勘研究を模索してい ます。

 本書には、日本奈良朝写本といった未公開資料の録文も収録され、東アジアに眠らず、広く仏教研究を志す者に必携の書と言えましょう。

池田魯參著『『摩訶止観』を読む』 (春秋社)

池田魯參著『『摩訶止観』を読む』 (春秋社)

 昨今、ストレスの軽減や集中力を高めることを目的として、所謂「マインドフルネス」が流行し、呼吸や姿勢に意識を向けることが注目されています。こうした現代社会の潮流の中で、改めて仏教の伝統的なスタンダードの瞑想を採り上げるのが本書です。

 『摩訶止観(まかしかん)』は隋の天台智(ちぎ)(538―597)により講説されたもので、仏教の世界はどういうものか、仏教の実践とはどういうものか、これらに対して真正面から向き合った大部の著作です。しかしながら、その雄大な構想と緻密な内容のため、初学者が充分に理解するのは非常に困難であると言わざるを得ません。このように難解な『摩訶止観』ですが、本書はそれらを実にわかりやすく、懇切丁寧に読み解いていきます。『摩訶止観』本文の正確な訓読を基に、現代語による詳しい解説がなされているため、仏教やその瞑想、坐禅などに興味がある初学者には恰好の入門書であると言えましょう。

 以前、同一著者による『瞑想のすすめ――『摩訶止観』を読む』上・下巻(日本放送出版協会・1994年)が出版されていますが、本書はその改訂版として体裁や内容にも改めて手が加えられておりますので、はるかに読みやすくわかりやすい1冊となっています。

佛教史学会編『仏教史研究ハンドブック』 (法蔵館)

佛教史学会編『仏教史研究ハンドブック』 (法蔵館)

 本書は、仏教史に関心を持つ人や、これから学習・研究をしていこうと志す初学者を意識した入門書的性格を備えて編纂されています。インド・アジア諸国、そして日本と、仏教が伝播した地域を現代に至るまでの歴史を見通しながらまとめられています。

 全体の構成は、全3部8章から編纂されています。第1部では、初期仏教から大乗仏教、更にチベットやスリランカ、タイなど、インドとアジア諸国・諸地域の仏教について記されています。第2部は、中国・朝鮮半島における仏教通史的内容です。第3部は日本仏教で、古代から近代までの仏教が概観することができます。

 本書の特色は、各章において総説・特論・参考文献・基礎資料・コラムなどがほぼ見開きでまとめられていることです。各節においても「定義・概要」「研究状況」「課題と展望」「参考文献」が見開きでまとめられています。各節において、3〜5点ほど「参考文献」があげられており、初学者はもとより、専門外の研究者にとっても参考するに値します。更に、付録の年表は四地域を並列に示すことで、時代の流れを概略的に理解しやすく工夫が施されています。

 初学者のみならず、より深い知識を得たいという方にもお勧めの1冊となっています。

勝山市編『白山平泉寺 よみがえる宗教都市』 (吉川弘文館)

オリオン・クラウタウ編『戦後歴史学と日本仏教』(法蔵館)

 2017年、開闢(かいびゃく)1300年を迎えた霊峰白山は、立山・富士山と並ぶ「三禅定(さんぜんじょう)」の1つです。白山を福井県側の拝登口から上ると、その途中に平泉寺があります。平泉寺は、平安時代、泰澄(たいちょう)による開基とされ、中世以降の白山信仰拠点寺院として存在してきました。しかし、1574年に発生した一向一揆により全山が焼失し、当時の様子を知ることができませんでした。だが、1989年から平泉寺を中心に発掘調査が実施されたことにより、往時の白山の姿が徐々にあらわれはじめました。

 本書は、白山における信仰や経済活動、そして宗教都市としての白山について、これまでの研究、発掘調査結果を三部構成でまとめた1冊です。第1部「宗教都市の栄華」では、東尋坊や一乗谷、村岡山城と平泉寺の関係と、白山の盛衰について述べられています。第2部「白山信仰と禅定道」では、宗教的側面から白山信仰のあり方について書かれています。第3部「白山平泉寺の世界史」では、世界の都市と城郭を白山と比較し、宗教都市の栄華をあきらかにしています。

 発掘調査を手掛かりに、白山の解明に漸進している最中に発行された1冊になります。これまでの研究を踏まえて書き上げられた本書を読むことで、白山とその近郊社会の様子を知ることとなるでしょう。

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