平成21年度の研修旅行は、8月26日から28日の日程で台湾を訪れました。参加者は35名でした。
初日は中部国際空港から台北空港へ。入国審査の後、まずは道教寺院の木柵指南宮を訪れ、同宮の役員の方々の歓迎を受けました。その後、台北を代表する古刹の龍山寺を拝観するとともに、車窓から市内観光を楽しみました。また、夕食後は士林夜市を散策し、圓山大飯店に投宿しました。
二日目は午前中に法鼓山世界仏教教育園区を訪問し、研究施設を見学。あわせて、台湾流の坐禅を体験しました。その後、港町の基隆を経て、霊泉禅寺を拝登。また、映画「悲情城市」で有名になった九仇を散策した後、東洋一の高さを誇る台北101展望台から市内の夜景を堪能しました。
三日目は中華民国の兵士を祀る忠烈祠で衛兵交代式を見学した後、故宮博物院へ。時間の許す限り中華四千年の至宝を鑑賞し、夕方の飛行機で帰国しました。
禅研究所参禅会研修旅行の案内に最初に気づいたのは数年前と思います。その時は日程が所属する講座のセミナーなどと重なり、あっさりと参加を見送りました。一昨年、おそるおそる参加を申し出た富山の古寺巡りが最初の「私の研修旅行」でした。そこで、大野所長をはじめ、運営にあたった研究所の諸先生に思ってもみなかった「厚遇」を受けて味をしめました。そんな事で、次はどんな内容かと関心を持ち、今回の研修旅行に参加いたしました。
あまり信心のある方ではないのですが、お寺は昔から好きでした。また、このところ、あまり海外旅行もしませんし、海外は留学や学会出席で何度か滞在した米国しか知らず、アジアには観光を含めて一度も行ったことがありませんでした。今回、私にとって、期限の切れていたパスポートを更新しての、最初のアジア、台湾旅行となりました。見るもの、聞くもの、経験するもの、すべて珍しく、好奇心で目を点にして、見聞きしてきました。幸い、日本語の上手な現地のガイドさんが、中国語に無知な私を大いに台湾通にしてくれ、印象深い旅行になりました。
信仰心の篤い、台北庶民の姿が最も印象深く私の心に残りました。台北の下町といわれる市内南西、淡水河近くにある「龍山寺」でのことです。一日目の午後五時頃、私達の乗ったバスは、見慣れない(アジア特有の)看板・サインで溢れた町並みを穏やかに進み、寺院横の歩道に停車しました。交通量の多い、比較的大きな道路が交叉し、お寺はその角にありました。しかし、寺院の中に入って、風景が一変しました。長く太い(私には珍しい)お線香を複数本手に持って、一心に祈る、普段着の庶民で溢れていました。私のような、半ば観光気分でお参りしている人など、目もくれずに祈る姿が境内に溢れていました。また、別の人々は、独特の形をした木片を二個、足下に落として、その形(配列)で、自分の運を占っていました。
さらに、お堂の中には、白い小さな長方形の名札がびっしりと貼られて、天井に届かんばかりの高さの巨大な柱が何本も立ち並んでいました。何とその小さな名札がお寺への一つ一つの寄進を意味するそうです。何か記載があるのかもしれませんが、小さいのでまったく判別できず、ただの大きな「飾り柱」のように思えました。日本でよく見かける寄進者の銘が彫ってある石灯籠、時には寄進した金額まで記入してあります。あたかも、寄進者が寄進を誇示するかのようです。しかし、ここでは誰がいくら寄進したなどは、まったく判別できません。円柱の上に貼られている名札ほど高額の寄進と聞き、ちょっとした驚きでした。個人的な事になりますが、私の家内の両親は共に台中の出身で、若いときに日本に移ってきた、いわゆる「台湾華僑」です。今なお健在の義母のために、台湾語のCDを求める事も密かな目的でした。ホテルの案内嬢に事情を話して、数カ所のCDショップを調べてもらいました。しかし、自分で出かける時間的な余裕がなく、ガイド氏にお願いして、台湾出身で「アジアの歌姫」と称されている故テレサ・テンが、台湾語で歌っている珍しいCDを入手する事ができました。
超近代的な「台北101タワー」、古い港町という「基驕vの街並み、市内道路脇にあるスクーターの駐輪場、雪国でみかける雁木造風の歩道、道に迷いながら到着した東南アジア風の壮大な「霊泉禅寺」など、深く心に残っています。このような貴重な体験のために、長い時間をかけて準備して頂いた関係者に感謝します。
愛知学院大学に長年勤務させていただきましたが、退職後は、参禅会やその他の行事案内を頂くばかりで、なかなか参加できずにいました。けれども、愚息が寺の代務を務められるようになったことと、大学院で大野先生からご指導を受けているご縁、また、家族の後押しもあって、昨年に続いてこの研修旅行に参加することができました。
最近は数年に一度、中国の仏教祖蹟巡拝をしています。中国本土では、五台山、黄山、泰山等の仏教聖地が景勝地にあり、世界遺産にもなっていて観光地化されているため、多くの人達が訪れています。一方、国家の方針もあってか僧侶は熱心に修行しているのですが、一般信者との交流は少ないというのが現状だそうです。
それに対して、台湾仏教の聖地の拝登は、私にとっては今回が初めてです。台湾仏教に直接触れてみたいと願っていましたが、期待した通り、深い感銘を受けるとともに、僧侶として反省させられる旅行になりました。
拝登しました霊泉禅寺は、戦前の曹洞宗の宗門学校『泰北中学』の源泉になったお寺です。手厚いお接待を受ける一方で、新しい伽藍に驚嘆しました。また、老尼僧さんが日本語を自由に話されているのを聞き、日本統治時代の名残と、教育の影響力の大きさに怖さを覚えました。
法鼓山では、広大な敷地に立派な諸伽藍が建ち並び、仏教信仰と研究の一大拠点が築かれていることに目を見張るばかりでした。大きな禅ホールで体験した坐禅では、暑さの中にも清風を感じ、清々しい思いがしました。敷地内の大学・大学院・研究所は見事に整備されており、電子化されていました。また、大学の運営費は全て信者の寄進で賄われていて、学生の授業料は、出家者と災害などに遇った学生については無料とのことでした。
教団では、開祖の聖嚴法師への尊敬心にもとづいて、禅定(瞑想)修行を中心とする高い学問的素養が追求されていました。特に、信心堅固で優れた仏教的素養の持ち主にしか出家を許さず、僧侶の育成には細心の注意が払われているとともに、出家者には厳しい戒律を課しているとのこと。真の仏教者の姿を拝見した思いで、己の身の安易に恥じ入り、自己研鑽に努めなければと反省することができた、大変有意義な研修旅行でした。改めて禅研究所の先生方に感謝申し上げる次第です。
今回初めて禅研究所研修旅行に参加させていただけることになり、台湾も初めてなので旅行前から期待でわくわくしていました。
台湾は日本でのお盆の時期にあたり、豪華絢爛なお供えが所狭しと置かれていました。お寺は日本とは違い、金色や朱色が主体のきらびやかな建物でした。境内には地元の信者たちが絶えることなく訪れ、長い線香をあげて真剣に祈る姿が見られました。老若男女を問わず、子どもからお年寄りまで、台湾の人たちの信仰心は「深い」です。普段の生活の一部分になっていると思いました。
二日目に訪問した法鼓山世界仏教教育園区は寄付でできた立派な大学をもつお寺で、台湾の人たちの信仰心を強く感じ、驚きました。
「台北101」はデパートのようにショッピングモールがあり、高くて大きくて素敵なデザインの建物でした。見晴らしもきれいでした。ダンパー(免震装置)もとても大きくて、地震は嫌ですけど、どんな動きをするのか見てみたいです。
故宮博物院では人の多い中、思っていたより小さかった?有名な「白菜」の彫刻と、「豚の角煮」を見ることができうれしかったです。
そして旅行での一番の楽しみであった食事は台湾料理・海鮮中華・宮廷料理。どれもおいしくて、毎日ついつい食べすぎました。薬膳で体に良いとはわかっていても、亀ゼリーだけは……。もうひとつ楽しみのマッサージも「痛いかな?」と心配しつつ行ってみましたが、気持ちよくすっきりしました。
ホテルも豪華であっという間の三日間でした。帰国するのが嫌になるくらい、楽しく有意義に過ごすことができました。大野先生、事務局の先生方には色々お世話いただきありがとうございました。
本年度の研修旅行には、台湾北部の寺院を訪れて、当地の仏教信仰を探ることと、故宮博物院の見学という二つの目的があった。本欄では、前者について報告する。
現在、アジア各国で新しい仏教のあり方を模索する動きが活発である。そうした中で、中国系の人々の信仰を集めているのが大乗仏教であり、その指導的な役割を担っているのが台湾仏教界である。
ちなみに、台湾には道教寺廟が七千余、仏教寺院が約二千存在するという。ただし、道教、仏教、儒教の神仏を合祀する寺廟も多い。また、それぞれの寺廟の歴史は意外に新しい。古刹でも十七世紀頃の草創と言われており、多くの仏教寺院は日本の植民地時代以降の開創である。今回は代表的な四カ寺を訪問した。
最初に訪れた指南宮は、台湾道教の総本山の一つである。台北市街を一望する木柵山の上にあり、1890年の創建である。バスを降りて、供物を売る店が立ち並ぶ参道を抜けると、呂洞賓を祀る純陽寶殿に達する。さらに進むと、玉皇大帝を祀る豪壮な凌霄寶殿にたどり着いた。祭壇には多くの神々が祀られており、絢爛豪華である。私達は管理委員会の方々の歓迎を受けて堂内を見学し、その信仰の一端に触れた。敷地内には大雄寶殿と呼ばれる仏教寺院と、大成殿という孔子廟もあるが、時間の都合で見学できなかったのが残念である。
次に訪れた龍山寺は、台北市内最古の仏教寺院で、1738年に福建省出身の人々が創建した。日本のお盆に相当する時期だったこともあり、境内に入ると線香の煙に包まれた。中央には本尊の観音菩薩を祀る本殿があり、その前では供物を並べて多くの人々が祈りを捧げていた。また、背後の後殿には儒教や道教の神々が祀られている。思い思いに参拝する人々の中には、縁結びを司る月下老人の前で、二つの赤い木片を投げて占いをする女性の姿もあった。ちなみに、同寺院は願い事のかなった人々が寄進する浄財で運営されているという。寄進者の小さな名札を張った巨大な円柱が、幾本も連なる様子は壮観である。庶民信仰に触れるお寺であった。
二日目の午前中には、基隆市郊外の山中に広がる法鼓山世界仏教教育園区を訪れた。法鼓山は現在の台湾仏教界で注目を集める代表的なグループの一つで、江蘇省出身の聖嚴法師によって創設された。1960年代に活動を始めており、現在では四十万人以上の信者を擁するという。その特徴は学問と瞑想を重視する点にあり、1989年以来活動拠点とされている現在地には、寺院の伽藍とともに、法鼓佛教学院の施設が点在する。私達は、坐禅堂でしばしの坐禅体験をした後に、佛教学院の校長でもある釋惠敏教授や他の教員との交流会の後、同学院の図書館や講堂等の諸施設を見学した。近代的で充実した設備と、電子化された研究環境が印象的であった。
法鼓山に続いて訪れた月眉山霊泉禅寺は、1900年頃善惠師によって開かれた。同師は臨済宗の法系ではあるが、植民地時代には日本曹洞宗の協力で、愛知学院のかつての姉妹校である台湾佛教中学林(現在の泰北中學)を開創している。私達は本尊上供の後、現住職の晴虚師の歓待を受けて、諸伽藍を拝見した。中国の伝統的な寺院建築を模した鉄筋コンクリート製の豪壮な伽藍と、清潔感のある堂内の様子は見事である。また、同寺でも華文佛教学院を併設しており、僧俗に対する仏教教育の隆盛を実感した。
短期間ではあったが、活力あふれる台湾仏教界の様々な姿を見聞し、大変に有意義な研修旅行であった。(文)