平成29年度の研修旅行は、8月28日から9月1日の日程でインドネシアを訪れました。参加者は32名でした。
初日は中部国際空港からシンガポールを経由してジャカルタへ。到着後は、ジャカルタの中心寺院であるエーカヤーナ寺院に移動し研修を行いました。
2日目は空路にてジョグジャカルタへ。クラトン(王宮)、タマン・サリ(水の離宮)、バティック工房を見学しマリオボロ通りを自由散策しました。午後には、プランパナン寺院遺跡(ロロ・ジョングラン寺院、セウ寺院)を訪れ、ヒンドゥー教と仏教の融合文化を確認しました。また、夕食時には民族舞踊「ラーマヤナ」を鑑賞しました。
3日目はムンドゥ寺院、パオン寺院を訪れ、世界最大の仏教遺跡であるボロブドゥール遺跡を見学しました。その後、空路にてデンパサールに移動し、レゴンダンスを鑑賞しながら夕食を堪能しました。
4日目は、泉から聖水が湧くティルタ・エンプル寺院、バリ・ヒンドゥー教の総本山ブサキ寺院、バリ・ヒンドゥー教の最高神サンヒャン・ウィディが祀られるジャガナタ寺院にて、それぞれ研修を行いました。夕食後には、深夜便に搭乗し、5日目の朝に帰国しました。
昨年度より、非常勤講師のご縁をいただき、今回初めて参加させていただきました。
現地では、ボロブドゥール寺院やプランバナン寺院といった世界遺産を象徴するような独特な宗教文化を直に体感できました。中でも、日本の仏教音楽・芸能を研究分野とする私にとって印象的だったのは、方々の寺院などで音楽が色濃く浸透していたことでした。
インドネシアといえば、ガムランという音楽や舞踊が有名ですが、ガムランは宗教とも不可分の関係にあり、寺院の祭礼や火葬儀礼で実演されます。ブサキ寺院などのヒンドゥー教寺院では、実際にその楽器が置いてありました。残念ながら、そこで演奏を聴けませんでしたが、クラトン王宮の方で洗練された演奏に遭遇しました。寺院のみならず、宮中で演奏する点では、日本における雅楽のような一面があるのでしょう。雅楽は、日本に仏教とともに伝来した経緯があり、寺院音楽でもあります。現在では、例えば、四天王寺における聖霊会(しょうりょうえ)の雅楽が有名です。
また、民族舞踊「ラーマヤナ」を鑑賞しましたが、そこでもガムランの音楽が聴けました。そのガムランは、より荒削りで日本の神楽といったところでしょう。清めの儀式で始まり、セリフのない、いわゆる無言劇が展開されていました。無言劇という点では、日本の念仏狂言を見るようでもありました。
一方、仏教寺院でも、独特な音楽がありました。それは、エーカヤーナ寺院の信者たちによる念仏唱和です。意外にも、その念仏の節回(ふしまわ)しは、西洋音楽の教会旋法を思わせました。堂内の片隅にはアップライト・ピアノがあり、その音楽事情を物語っていました。こうした音楽的な信仰の表出は、日本のご詠歌(えいか)のようでした。考えてみれば、ご詠歌も、近代以後に西洋音楽の影響下で基盤が整えられてきました。
こうしてみると、国境を越えても、宗教と音楽の密接な関係を実感させられるようで、有意義でした
南洋の国インドネシア。乾季とはいえやっぱり蒸し暑いところでした。ジャカルタ空港や市内中心部は最新の施設やモダンなビル、タクシーはすべてプリウスかと思うような風景でしたが、庶民の住居は日本の戦後のようで貧富の格差を感じました。そのような中でも寺院は立派で、信仰心の篤さや心豊かなおもてなしに感服いたしました。写経文化があれば拝見したいと思っていたのですが、そういった習慣はないとのことでした。ただ、漢字で書かれた『般若心経』にインドネシア語のフリガナを付けた経本があるのには驚きました。
プランバナンやボロブドゥールは、古代の人がどうやってこんなに立派なものを作ったのかと思うほど素晴らしい建造物でした。どこの国でも古代の人の技術には頭の下がる思いです。アグン山の火山活動前ということもあり、立派なブサキ寺院もゆっくりと拝見することが出来て恵まれておりましたが、現地の方々の不安を考えますと心の痛む思いです。
庶民の町家と打って変わってホテルは大理石をふんだんに使ったゴージャスな施設でした。大理石を使うのは暑さ緩和の役目があるそうです。これだけ大理石が取れるのなら石灰もあるのではと思い調べましたら、なんとインドネシアの水には大量の石灰が含まれているとのことでした。こんな水を飲んだらお腹を壊してしまいます。水道水が飲料に適さないのは、不衛生ということだけではなかったのだと知りました。また、シャワーが塩水というのにも驚かされ使う時はとても不安でした。蛇口を捻ったら水が飲めて自由に使え、ライフラインも整備されて食べ物も美味しい日本は、本当に住みよいところだと日頃の当たり前なことに、つくづく感謝する帰国後です。
今回の研修旅行では、ジャカルタ、ジョグジャカルタ、バリ島と巡ったが、各地の訪問先ごとに強い印象が残っている。その中でも特にボロブドゥールの印象が強い。
ボロブドゥールでは、第1回廊の『ラリタヴィスタラ』(『方広大荘厳経』)の仏伝図の浮彫(レリーフ)を見るのが、私の第1の目的であった。もし可能ならば、その他のジャータカや善財童子の旅を含めて約1500枚のレリーフを見たいと思ったが、限られた時間では不可能なことであった。壁面と欄楯の全部のレリーフを見るには、1周400メーター程の距離の各回廊を、下から上まで10周しなければならないことになる。そこで『ラリタヴィスタラ』のレリーフに絞って、写真撮影に挑戦した。1枚ずつ写真を撮って1時間近くの時間が経過した。もちろん壁面に番号が書いてあるのではないため、事前に構図を記載したメモを作っていったが、じっくりと確認しながら見る余裕もなく、順番にシャッターを押し続けた。
写真を撮りながら、このボロブドゥールは何であったのか考えた。ストゥーパ、あるいは寺院、あるいは宇宙観を具現化した立体曼荼羅や霊廟だろうか。それぞれの説には学術的な根拠があるだろうが、これは仏教の教えを民衆に教えるための施設であったのではないかというのが私の実感である。
私は『ラリタヴィスタラ』を読んだことがない。仏伝の概要を知っていても、レリーフ1枚ずつに表された場面を解釈できない。もしも常駐の僧侶がおられて説明を受けながら一緒に回れば、確実に仏教の教えを理解することができるであろう。
私は帰宅してから参考文献と対比して写真の1枚1枚を読み解いていった。そして120枚にわたるレリーフが写実的な表現で、仏伝を丁寧に表していることに感嘆した。全く素人の感想であるが、ボロブドゥールは民衆教化の目的ではないかと改めて感じたのであった。
今回の研修旅行では多くの遺跡や寺院を訪問した。参考にした古い文献を見ると崩壊したままの建築が、現在は立派に復元されていたものもあった。ボロブドゥール遺跡を始めとして、いずれも強く印象に残る内容の濃い研修旅行であった。
本年度の研修旅行はインドネシアのジャワ島とバリ島を訪れた。同国の人口は約2億6000万人で、人口の87%がイスラム教徒という、信者数では世界第1位の国である。その他の宗教については、キリスト教徒が人口の10%、ヒンドゥー教徒が2%、仏教徒が0.8%という情勢になっている。インドネシアは紀元前から中国南部の民族が沿岸部から南下し、中東の商船が香辛料を求め来訪していたことから、古くから海のシルクロードの中継地として様々な文化が行き交っていた。当初は仏教が伝来し、その後ヒンドゥー教が台頭した。さらにイスラムの波が押し寄せたことが、現在の宗教の比率に如実に表れている。私達は再び脚光を浴び始めたインドネシアの仏教事情を見学するため、仏教寺院を訪れた。
最初に訪れたエーカヤーナ寺院は一乗禅寺とも呼ばれ、中国系の人々の信仰を集めている。首都ジャカルタにおける仏教の中心寺院で、1990年頃に創建された。観音菩薩・阿弥陀如来を篤く敬い、日曜日毎に上座部仏教式の礼拝集会が開催される。到着が19時を過ぎていたにも関わらず、300人程の檀信徒が読経する中、私達は熱烈な歓待を受けた。寺院での行事は多くの場合、在家信者が執り行う。これは同国の仏教復興が在家信者から始まったことに由来する。伽藍は現代的で一見、ビルのようだが、内部中央には金色の丈六仏が安置されていた。寺院全体を通じて華麗な装飾が施され、喜捨を通じて人々への救済を重視する気風が反映されている。私達は仏前で諷経(ふぎん)した後、檀信徒が用意した食事をいただいた。
ジョグジャカルタで王宮を訪れた後、ヒンドゥー教遺跡のプランバナン寺院では夕日に染まる神々の石像を拝観した。遺跡の敷地内は緑豊かで涼風に癒された。
世界遺産にも登録された仏教遺跡ボロブドゥールは、寺院説・修行場説・立体曼荼羅説などが挙げられるが、未だ謎に包まれている。5世紀頃に同国最古といわれる仏教王朝が繁栄し、八世紀になるとシャイレンドラ朝が興り、ボロブドゥールを建設した。壁面には1460面の『法華経』にある財前童子の物語と『本生絵』の浮彫が施されている。近づくに連れて高さ42mの巨大遺跡に圧倒され、当時の仏教徒の熱意を感じることができた。赤道直下の日差しの下、私達は多くの観光客で賑わう遺跡内を巡った。
ボロブドゥールと同時期に建立されたムンドゥ寺院は、現在、タイ人僧侶によって僧院が創設され、上座部仏教の修行実践の場として地域に根付き始めている。インドネシア風庭園の中に東洋風の仏像が立ち並ぶ様子は、異文化が共存する多民族国家ならではといえる。釈迦涅槃像が安置された伽藍内で諷経を行った後、住職の案内で内部を拝観した。近隣にあるパオン寺院は現在修復中のため外壁を見学できなかった。
バリ島では、聖なる泉が湧き出るティルタ・エンプル寺院を拝観した。信者以外でも沐浴が可能であるため、巻きスカートを身につけた多くの観光客が水を浴びて身を清めていた。次に訪れたブサキ寺院はバリ・ヒンドゥーの総本山で、アグン山の中腹に建てられている。拝観時は偶然にも儀式が行われており、色とりどりの供物を持った信者で賑わいを見せていた。旅の締めくくりは、インドネシア独自の唯一神サンヒャン・ウィディを祀るジャガナタ寺院を拝観した。
短い期間であったが様々な宗教に触れ、仏教と異宗教の共存する一つの形を学んだ、実り多い研修であった。