愛知学院大学 禅研究所 禅について

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禅の一言  平成10年度

本来の面目(著・所長 中祖一誠)

 唐末の禅匠、瑞巌寺の師彦(しげん)は、常日頃ひたすら坐禅に精進していましたが、まいにち大声で「主人公」と自分に喚びかけ、「はい」と返事をしていたといいます。さらに、「目をさましているか」、「はい」、「人にだまされるなよ」、「はい」と自問自答するのがつねであったと伝えられています。

 「主人公」とは、一見、個としての人間を思わせることばですが、禅では「本来の自己」、「本来の面目」のことを意味します。自己本位の生き方を一歩突き破って、揺ぎない生き方を確立することをいいます。

 現今の複雑多岐にわたる社会の現実のなかで、わたしたちは、ややもすれば人間性を失って不安のなかに埋没してしまいがちです。

 近代文明の繁栄は、一度はわたしたちに人類福祉の夢を約束しましたが、この二百年の間に、すでにそれは幻影と化して、地球的規模の不安を増幅しつつあります。このような現実を克服する道はいろいろ考えうるわけですが、人間が自己本位の欲望に根ざす生き方にとどまる限り、根本的な解決にはなりません。どうしても”自己の究明”という課題に取りくまなければなりません。

 「仏道をならうというは自己をならうなり。自己をならうというは自己をわするるなり。自己をわするるというは万法(まんぽう)に証せらるるなり。」(道元禅師)ということばはこの消息をあますことなく伝えています。

 我慾・我執を離れ、自他の対立を越えた天地一杯にみなぎる生命に生きることが、禅のめざすところであります。

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