愛知学院大学 禅研究所 禅について

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禅書のしおり 平成12年度

衛藤即応著【道元禅師の宗教と現代】(春秋社)

 本書は、衛藤即応氏の遺稿集を、門下の中世古祥道氏が編集したものです。

今日の宗門において「衛藤宗学」という言葉が広く知られていますが、その内容が必ずしも的確に捉えられていないことから、編者は、本書の発刊を通して衛藤氏の真精神が少しでも周知されることを願っています。

『道元禅師の宗教と現代』というタイトルは、著者の研究姿勢が常に現代に置かれていたからであり、道元禅師の教えを現代にいかに生かすかが、著者の畢生の念願であったからでありましょう。

ここに収録されている論稿は、「仏教の研究法」「道元禅師の本尊論―宗門の本尊論」「「修証義」について」「「修証義」の講説」「補 行持の巻 飛石集」です。特に「修証義」講説は、第二章の初めで終わり完結されていませんが、「行持の巻」の収録により、「行持報恩章」を偲ぶことができます。

著者は、道元禅師の宗教は「21世紀の宗教」として 羽ばたくものと期待しています。新たな世紀を迎えた今、道元禅師の宗教の参究において、再考すべき一書といえます。

吉津宜英著【修証義による仏教入門】(大蔵出版)

 修証義は、1890年に『正法眼蔵』などの文章を抜粋して五章に編集された曹洞宗の聖典です。しかし、それは、道元や曹洞宗の教えを示す教義書というより、一宗一派を超えた仏教書というべきものです。著者の吉津氏は、このような点から修証義を仏教入門書として捉えて本書を著しました。

吉津氏は、現在、駒澤大学の教授で、華厳学を専門にし、道元をはじめとする禅の教えにも深く関心を寄せています。

しかも、仏教を単に学問としてではなく、より実践的に捉え、自己の生き方の問題をテーマに、様々な提案をしています。本書にも、そのような姿勢が表れています。

従来、修証義の注釈書というと、あたかも道元の著したものであるかのように、『正法眼蔵』の本文を引いて解説しているものがほとんどでした。そのように修証義を読むと、道元思想を誤解したり、修証義のよさを見失ったりする恐れがあります。吉津氏はこの点に留意して、修証義を道元の世界から切り雛し、仏教の世界そのものを考える緑(よすが)として扱っています。

本書は、道元の世界に向かうきっかけになるとともに、自己の生き方の問題として仏教を理解する一助となるでしょう。

佐藤弘夫著【アマテラスの変貌】(法蔵館)

 古来、多くの日本人は、神と仏の両方に祈りを捧げてきました。これまでの学説は、その理由を、神は仏の仮の姿(垂迹)と考えられていたからだと説明してきました。

しかし、古典作品には、神仏を同じように扱う記事があふれています。あるいは、日本人だけを救う「日本の神」ならぬ、「日本の仏」も存在します。また、同じ観音でも、例えば「長谷寺の観音」というように、特定の仏像に対する信仰が強調される例も多く見られます。こうした事実をどう理解すればいいのでしょうか。

著者はこの問題をめぐって、特に日本の古代と中世に焦点をあてながら、神仏それぞれの変貌と、両者の交渉の様子を明らかにします。それは従来の学説に変更を迫るとともに、日本人の仏教観と世界観についての新しい視点を提示するものでもあります。

著者も述べているように、本書は単なる概説書ではなく、あくまで専門の研究書です。しかし、素人にも読み易く、知的好奇心を満たす爽快な推論は、推理小説のような読後感を与えてくれます。確かに、著者の主張には異論もあるでしょう。けれども、日本人の精神世界を理解するうえで、示唆に富む一書であることは間違いありません。

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