著者は多年にわたり、中国の宋代から元代にかけて開版された禅籍の文献史的基礎研究に従事してきました。
その研究成果は、『宋元版禅籍の研究』(大東出版社)として上梓されています。その後、『禅学典籍叢刊』全一三冊(柳田聖山氏と共編、臨川書店)『五山版中国禅籍叢刊』全一二巻(臨川書店)といった、禅学の研究にとって欠かすことの出来ない貴重な影印資料集を刊行されています。これら両叢刊は、これまで容易に閲覧することの叶わなかった古典籍や稀覯書の影印が掲載されているばかりではなく、各巻に付されている詳細な解題にこそ、その本領があるといっても過言ではありません。
本書は両叢刊に掲載された解題をはじめ、活字版ではない原本を直接に閲読・調査した著者ならではの諸論考が網羅的に収載されています。禅学を志す方にとって必携の書と言えるでしょう。
著者は歴史学(日本中世史)の立場から、おもに禅宗と社会の関係について研究を推進しています。その研究射程は広く、ややもすれば宗派ごとの研究に陥りがちな日本仏教研究の問題点を踏まえ、禅宗と他宗派・社会・政治との関わりにも注意が払われます。
こうした問題意識のもと、著者は先に『日本中世と禅宗の社会』(吉川弘文館)を上梓していますが、本書においても、前掲書と同様の問題意識のもとに、中世後期社会において禅宗が何ゆえ勢力を持ち、人々に受け入れられていったのかが考察され、既成仏教として圧倒的な権勢を誇った顕密諸宗のもとで、禅宗がどのような形で仏教界に地位を占め、社会的な立場を確立させていくのかが明らかにされていきます。
とくに、これまで総合的研究の少なさに恨みのあった室町期禅宗の諸相が明らかにされている点は注目されます。