令和6年1月17日に発表された第170回芥川賞は、九段理江さんの『東京都同情塔』が受賞しましたが、作中で主人公がAI(人工知能)と対話する場面で、実際に生成型AIを使って文章を作ったことが話題となりました。全体の約5%ほどだそうですが、AIとの対話であれば、使った方が実態に迫れることでしょう。
教育現場で既に注意しているのは、レポートの作成に生成型AIが使用されることですが、作られる文章の精度はまだ高くありません。AIは基本的な知識も踏まえずに文章を作ることがあります。授業では、受講者からAIへ「愛知学院大学の特徴は?」と質問してもらいました。すると、「愛知学院大学はキリスト教の価値観に基づく教育を提供しています。学校の創立者であるヘンリー・ジョセフ・ネイサンによると……」と、全く関係が無い内容が回答され、これを見た学生には、非常に強い注意喚起となりました。もちろん、AIへの質問方法や分野などを工夫し、正しい使い方を模索しなければならないのです。
新技術がいつでもどこでも利用できますので、良い使い方を考えたところ、我々の「法話」に使えそうな気がしました。一例として、令和6年に700回大遠忌迎える太祖・瑩山紹瑾(けいざんじょうきん)禅師を顕彰する短い法話を作らせてみました。「瑩山紹瑾禅師、曹洞宗の太祖(たいそ)として、深い悟りと慈悲の心をもって禅宗を興(おこ)しました。彼は、厳しい修行と共に、日常のありのままの生活に悟りを見出すことを説きました。彼の教えは、簡素でありながら深遠で、現実を直視し、心を清らかにすることの大切さを示しています。瑩山禅師の座右の銘は「平常心是道」(ありのままの心こそが道)であり、これは彼の教えの要点を端的に表しています。瑩山禅師の影響力は時を超えて広がり、彼の教えは今もなお多くの人々に支持されています。私たちは、彼の教えに触れ、平穏な心と深い理解を求める旅路に感謝を捧げます。瑩山禅師の言葉と実践から学び、彼の導きに従い、心を静め、調和と平和を追求しましょう。感謝を込めて、瑩山紹瑾禅師に敬意を表します。」(ChatGPT3.5)
いかがでしょうか。瑩山禅師について、これまで良く学ぶ機会を得ていない人が聞いたら、十分に満足するかもしれません。それくらい、こなれた内容となっています。ただ、やはり問題があります。例えば、「禅宗を興した」ことを、瑩山禅師に帰することは困難です。道元禅師が伝えた「正伝(しょうでん)の仏法(ぶっぽう)」を、更に後代に伝え、広げたというべきでしょう。
一方で評価すべきは、「平常心是道」について言及していることでしょうか。座右の銘だったのかは疑問も残りますが、少なくとも本師・徹通義介(てっつうぎかい)禅師からその境涯を問われる際に使われた、伝記上重要な言葉です。
そして、末尾で瑩山禅師に敬意を表したことからは、祖師を稽首礼拝(けいしゅらいはい)すべきことを教えてもらった気がします。よって、正しい知識を問うような使い方は難しいのですが、使い方次第であろうと理解しました。例えば、今現在の状況を問うには、向いているかもしれません。
◎マインドフルネスとストレス管理:現代社会は忙しく、ストレスや不安が日常的な課題となっています。仏教の教えは、マインドフルネス瞑想や呼吸法を通じて、現在の瞬間に集中し、心を静めることを提唱しています。これはストレス管理やメンタルヘルスの向上に役立つ実践であり、日常生活に積極的に取り入れることができます。
◎無欲・無執着の教え:仏教は欲望や執着から解放されることを重視しています。物質的な欲望や執着が生活を支配することで生じる苦しみに対して、仏教の教えは物事に執着せず、適切な範囲で物事を楽しむことの重要性を説いています。これにより、より持続可能で満足のいく生活を築く手助けとなります。
◎他者への思いやりと慈悲:仏教の中心には他者への思いやりと慈悲の教えがあります。自分だけでなく他者の幸福も重視し、共感と理解を持って接することが強調されています。現代社会での人間関係の課題やコミュニケーションの向上において、仏教の教えは価値ある指針となります。これらの教えは、現代人が抱えるさまざまな課題に対処し、より意味のある人生を築く手助けとなるでしょう。(ChatGPT3.5)
こちらは、現代の人達へ語るべき仏教の教えを三項目で答えるよう質問してみました。まずストレス社会への対応を勧めています。マインドフルネス・ストレス低減法が広く理解されておりますので、それを使うべきだということです。無欲・無執着に注目したのは少し驚きましたが、内容からはSDGsやその先のウェルビーイングなども射程に入っていそうです。そして、他者への思いやりや慈悲は、世界が断絶に陥ったこの2020年代中盤だからこそ、改めて確認されるべき教えであるといえましょう。
以上、「生成型AIと仏教」について申し上げましたが、今後、更に性能が高まったAIが出て来た時に、AIの教えの方が良いなんてことにならないように、精進しなければならないと思います。
(教養部准教授)